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ファッション業界は今、
どう関税に対応すべきか

Tariffs

アメリカ政府は2025年4月、「相互関税」の方針として、日本からの輸入品に対して24%の関税を課すと発表しました。さらに、ほぼすべての貿易相手国に対して、一律10%の関税を課す方針も示されており、これにより世界のサプライチェーン全体に広範な影響が及ぶと懸念されています。アメリカ側は、日本の非関税障壁を考慮すると、実質46%の関税に相当すると主張しています。

この政策により、日本国内のファッションブランドや小売事業者も大きな影響を受ける可能性があります。関税引き上げは、原材料から製品に至るまでのあらゆる段階でコスト上昇を引き起こすため、調達、物流、価格設定を含むサプライチェーン全体の見直しが急務です。

また、物価上昇や将来への不安から、消費者の購買意欲が低下するリスクも無視できません。こうした状況下で重要となるのは、「いかに利益を確保しつつ、顧客離れを防ぐか」という視点です。単なる値上げではなく、コストを回収しつつ競争力を維持できる戦略的な価格設定が求められます。顧客との信頼関係を維持しながら収益性を確保することが、今後の成功を左右する鍵となります。

本記事では、関税負担が増す中でどのように価格戦略を見直すべきか、その実践的なアプローチをご紹介します。

1. 今選ぶべき価格戦略とは

関税によってコストが上昇した場合、企業には主に3つの選択肢があります。

  1. コストの吸収
    価格をそのまま維持し、他の部分で効率化を図ることでコスト増をカバーします。
  2. コストの転嫁
    価格を引き上げ、関税分の負担を消費者に転嫁します。
  3. ハイブリッド方式
    一部製品の価格を選択的に引き上げ、同時に業務効率化やコスト削減を進めます。

最適な対応を見極めるには、ブランドの位置付けやターゲットとする顧客層、そしてコスト構造全体を踏まえて判断する必要があります。

  • 高価格帯ブランドの場合
    価格設定の自由度が高く、ブランドの世界観や職人技を訴求することで、価格改定に対する顧客の理解を得やすい傾向があります。
  • 中価格帯ブランドの場合
    価格に敏感な層が多いため、安易な値上げはリスクとなります。顧客を維持するためには、段階的な価格調整や付加価値の訴求を組み合わせた、より戦略的なアプローチが不可欠です。
  • 低価格帯ブランドの場合
    消費者が非常に価格に敏感なため、価格を維持しながらも、効率化やコスト削減を通じて利益を守る工夫が求められます。

2. 顧客を失わない価格改定の伝え方

価格改定に伴う顧客離れを防ぐためには、以下のアプローチが有効です。

  • 価格改定の背景説明
    消費者はインフレや国際貿易の影響について理解しています。そのため、品質維持のための価格調整であることを明確に伝えることで、納得感を得やすくなります。
  • 価格を超えた「価値」の提供
    単に価格が上がることを伝えるのではなく、素材の改善、サステナビリティへの取り組み、製品の機能向上などを説明することで、顧客は価格以上の価値を感じやすくなります。
  • 段階的な引き上げ
    いきなり10〜15%の値上げを行うのではなく、数か月かけて段階的に価格を調整することで、顧客の負担を和らげ、価格改定に対する心理的な抵抗感を減らすことができます。

3. 価格引き上げを補う「価値の向上」

価格を上げざるを得ない場合でも、「価格以上の価値がある」と顧客に感じてもらうことが重要です。次のような方法で価値を高めることができます。

  • 製品の品質向上
    より高品質な素材を使用することで、製品の耐久性や質感、仕上がりの精度が向上し、価格に見合う価値を提供することができます。
  • バンドル販売
    「2点購入で10%オフ」などのセット割引を導入することで、価格の高さに対する心理的なハードルを下げながら購買意欲を高められます。
  • ロイヤルティプログラム
    ロイヤルカスタマーに対して限定特典、送料無料、先行販売などの特典を提供することで、価格改定後も顧客のロイヤルティを維持・向上させることが可能です。
  • 社会的価値の提示
    環境負荷の少ない素材の採用や、労働環境・人権に配慮した調達・生産体制などを明確にすることで、価格以上の「社会的価値」を提供します。サステナビリティへの意識が高い消費者層に対し、価格改定に対する納得感とブランドへの信頼を醸成します。

4. 品質を保ちながらコスト効率を向上

単に価格を引き上げてコストを転嫁するのではなく、無駄を見直してコストを抑える工夫が求められます。こうした取り組みはすぐに成果が出るとは限りませんが、地道な努力が長期的な競争力やブランド価値の維持につながります。

  • 高関税素材の代替
    高関税がかかる素材を、品質を維持しつつコストパフォーマンスに優れた代替素材に切り替えることで、コスト削減が可能です。
  • パッケージの見直し
    パッケージの軽量化により輸送コストを削減するとともに、再生紙や段ボールなどコスト効率の良い素材に切り替えることで、1個あたりのパッケージコストを抑制できます。
  • サプライヤーとの交渉
    大量発注や長期契約を通じて、より有利な価格や条件を引き出すことが可能になります。
  • 業務効率の向上
    デジタルツールや自動化技術を導入することで、業務の無駄を削減し、効率的な生産体制を構築します。

5. ダイナミックプライシングとティアードプライシングの試験導入

関税によるコスト増加を軽減するため、新たな価格設定モデルを試験的に導入し、市場の需要や競争環境に応じて価格を調整することで、収益性を最適化します。

  • ダイナミックプライシング
    需要、季節性、顧客行動に応じて価格を柔軟に調整します。閑散期には価格を引き下げ、ピーク時には価格を引き上げることで、最適な収益性を確保します。
  • ティアードプライシング
    「スタンダード」「プレミアム」「限定版」といった異なる価格帯で製品のバリエーションを提供することで、顧客は自身の予算に応じて最適な製品を選ぶことができます。これにより、幅広いニーズに対応し、価格の柔軟性が顧客満足度を向上させます。
  • サブスクリプション・メンバーシップ
    定期購入を促進するために再注文時に割引を提供したり、VIPメンバーシップを導入します。「定期購入の場合10%オフ」といった特典を提供することで、顧客離れを防ぎます。

6. 割引の適正なタイミングと方法

関税による価格上昇は、顧客の購買意欲に影響を与える可能性があるため、適切な割引や特典を活用した戦略的対応が求められます。ただし、過度な割引はブランド価値を損なうリスクがあるため、以下のような戦略的な運用が必要です。

  • 顧客層を絞った割引
    ロイヤルカスタマーへの限定オファーや、初回購入者向けの特典など、特定の顧客層に向けた戦略的なプロモーションを実施することで、ブランド価値を保ちながら効果的に販売促進を図ります。
  • 期間限定セール
    限られた時間や期間だけセールをすることで緊急感を促進します。これにより、長期的な価値低下を防ぎつつ、販売を促進できます。
  • 付加価値の提供
    送料無料や購入特典、バンドル割引など、顧客体験を向上させるプロモーションを提供することで、ブランド価値を保ちながら顧客を引きつけます。

継続的な収益をもたらすスマートプライシング

関税によるコスト増加に対する対応は、単に価格を引き上げるだけではなく、戦略的なアプローチと効率的なコスト管理が求められます。価格調整は慎重に行い、透明性を持って顧客に伝え、コスト削減の機会を見つけることで、ブランドは利益率を守りつつ、顧客との信頼関係を維持できます。

関税の変動が大きいこの環境で成功を収めるブランドは、無計画に価格を調整するのではなく、柔軟で革新的なアプローチを採用し、顧客中心の戦略を実行するブランドです。

注記:本状況は現在進行中であり、随時最新情報を反映して更新いたします。