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マーケティングから始まる経営変革 ― パナソニック コネクトに学ぶ、顧客価値起点と「AIマシンリーダブルなデータ」

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生成AIの進化により、多くの企業がAI活用に活路を見出そうとしている。しかし、AIを導入しただけで経営変革が実現するわけではない。成果を上げている企業に共通するのは、テクノロジーではなく「顧客価値」を起点に、組織・プロセス・データを再設計している点にある。

パナソニック コネクトは、2022年11月にChatGPTが一般公開されて以降、国内B2B企業でいち早くAIを全従業員に導入するなど、顧客理解からマーケティング、データ基盤、そして経営そのものへと変革を広げてきた先進的なB2B企業だ。

本稿では、同社の取り組みを通じて、「顧客価値」を起点としたマーケティング変革と、その土台となる「AIマシンリーダブルなデータ」という考え方の本質を紐解く。

※本記事は、Centric PXM(旧Contentserv)年次カンファレンスProduct Experience Summit Tokyo 2023におけるパナソニック コネクト株式会社デザイン&マーケティング本部・デジタルカスタマーエクスペリエンス統括部長の関口 昭如氏の講演を元に編集しました。

顧客中心のビジネスモデルへの変革

関口氏は冒頭で、「我々のビジネス環境は非常に変化している」と切り出した。営業が主体的に情報提供を行い顧客とコミュニケーションする時代から、「コミュニケーション手段の主体が顧客側に変わっている」と所感を述べた。

また情報が過多であることも大きな要素であり、関口氏は「顧客は情報洪水の中で企業を探索しているという認識が必要」と説く。モノ消費からコト消費への移行や、グローバル化も重要なファクターだ。

こうした変化への対応が求められる理由の一つは、共創のエコシステムにおいて、従来の競合他社がいきなりパートナーになる可能性があることだ。自社だけですべての対応を行うのは難しく、競争を超えて協力し合う必要があるという認識が重要となる。

さらにLTV(顧客生涯価値)最大化のためには継続的な関係構築が必要となるため、「顧客の変化に適応する形でコミュニケーションのアプローチを変え、顧客中心のビジネスモデルに向けて進化していく必要がある」と示した。

パナソニック コネクトの取り組む顧客価値起点マーケティング

営業改革やソリューションのシフトにおいて、パナソニック コネクトでは顧客価値にフォーカスした「顧客価値起点マーケティング」を進めているという。特にテクノロジーの変化においては、AIやクラウドコンピューティングが重要な役割を果たしており、これに対応する形で日々のビジネスを展開している。この顧客価値起点マーケティングは顧客の変化への対応策であり、関口氏は「顧客理解から設計製造、プロモーションやセールス、契約購入後のトータルサポートを通してニーズに応えている」と概要を示した。

また、その中身については 1. プロダクトマーケティング 2. セールスマーケティング 3. リレーションシップマーケティング の3つに分類できるとした。

プロダクトマーケティングについては、「価値の種を作る活動が重要」だという。プロダクトの価値は顧客が判断してはじめて決まるため、本来であればサプライヤー側から「こういう価値があるものを作りました」と発信することは難しい。プロダクトマーケティングで顧客理解を進めることで、顧客が価値を見出せる商品を提供できるというものだ。

セールスマーケティングでは、顧客に価値の種をしっかり伝えることが目的となる。関口氏はこの領域について、「プロモーションやマーケティングコミュニケーションが鍵となる」と語った。リレーションマーケティングは特に重要な活動であり、商品を購入・契約したことで顧客が本当に成功しているのかを見極め、その価値を維持する取り組みだ。

この3点について、関口氏は「これら3つは単独ではなく、連携して進める必要がある」としたうえで、「組織が大きくなってくると連携が難しくなる。サービス企画や販売契約・CSなど各部門がサイロになりがちなので、これを防ぐために連携の活動を進めている」と語る。

さらに、パナソニック コネクトでは以下の4点をサイロをつなぐための活動と定義しているという。

  1. GTM戦略に基づいた、トータルに一貫性がある顧客エクスペリエンス
  2. データの統合/連携(製品・サービス・顧客のデータを全プロセスでつなげる)
  3. プロダクトアウトから、顧客ファースト・ストーリーを持ったデジタルコンテンツへの変革
  4. マーケだけではなく、営業・IT・人事・設計含めたすべての部門のマーケティングハート投入・従業員エクスペリエンスの改善

4.はカルチャーやマインド寄りのポイントだが、関口氏は「顧客のエクスペリエンス向上には従業員のエクスペリエンスが良好であることが不可欠。コインの裏表のような関係にあるので、どちらも一緒に上げていくことが重要」だと示した。

顧客価値の定義は「定性的」な視点から

「競合となる製品がある中で、たまたま自社のものを使ってもらっているだけではLTVの向上にはつながらない」と語る関口氏。そこでパナソニック コネクトにおいては、「クライアントの費用に見合う便益があること」「独自性があること」の2点を顧客価値の基準としている。

またBtoBビジネスにおける価値基準の難しさとして、クライアント企業の中にいる1人がプロダクトに価値を見出したとしても、チームや企業全体で認められていなければ、本当にその企業にとって価値のあるプロダクトなのかがわからないという点を挙げた。関口氏はこの点についても、「理想的には、顧客が所属する企業全体で商品やソリューションの使用が正解だと合意することが最大の目標」だと語った。

たとえばパソコン事業を行っている場合、メインターゲットは情報システムの担当者となる。しかし実際にパソコンを使用するエンドユーザー、資材調達や経理など多くの立場からの影響を受けることがあるため、異なる立場の人が持つ意向をきちんと理解することが重要だ。パナソニック コネクトでも、「顧客ごとに解像度を上げながら、顧客価値基点のマーケティングを進めている」という。

また、関口氏はもう一つ触れるべき点として「n=1という考え方」を挙げた。これはn=1の定性的な考えとn=manyの定量的な考えがある場合は、両者を組み合わせることはもちろん、「n=1の定性的な面を必ず先にやる」ことが重要だという。この理由について、関口氏は「たとえば1万人にアンケートを取った場合、統計的に処理されることで中央値や平均値が出てしまい、結局一般的に知られている回答しか得られなくなる」というリスクの存在を挙げた。 

「本当の顧客は、1社ごとに違った免疫がある」と話す関口氏。他の顧客にも刺さるのかを確認するための数量調査も行いつつ「コア・バリュープロポジションを定義して、コンテンツや営業資料に反映させたり、中期的には商品コンセプトや次の商品・ソリューションに展開していったりといった活動をしている」とした。サイロ化の解消や顧客の共通理解のために、UIデザインやプロダクトデザインといったデザイン部門との連携も行っている。

PIM・DAMビジョン達成のための8ポイント

講演の中で、関口氏は「サービスドミナントロジック」という概念について触れた。これは企業が生産し、顧客が消費するという商品ドミナントロジックとは異なり、企業と顧客が「共創」関係にあるという考え方だ。交換価値だけが唯一の価値ではなく、使用する状況などによって文脈によって価値が異なるという視点であり、顧客のナレッジも使いながら一緒にプロダクトを創り上げるという視点だという。

ポイントは常に顧客とつながるという「オールウェイズ・オン」だ。この考え方を踏襲し、パナソニック コネクトが策定した「デジタルカスタマーエクスペリエンス(DCX)ビジョン」では、顧客と企業の間でデータを結ぶための仕組みを構築し、商品企画やマーケティングコミュニケーション、営業やCSSなどをつなげることで理想の顧客体験を生み出そうとしている。関口氏はこのビジョンの基本コンセプトについて、「顧客データと製品データの両方がないと理想の顧客体験は生まれないという考え方」だと紹介した。

現在、同社においてはCentric PXM(旧Contentserv)電通デジタルと協力しながら、グローバルなPIM(Product Information Management)・DAM(Digital Asset Management)を構築しているという。

パナソニック社員や特定企業のクライアント、関係の深いパートナーなどを異なるレイヤーに分け、各地域ごとの製品情報をCentric PXMで管理するという体制を取っている。

PIMやDAMなどのプラットフォームが全体の基礎となっており、そこに対してフロントエンド側の各種機能を積み上げていくという考えから成り立っている。関口氏は「SSO(Single Sign-On)の会員認証機能なども備えながら、これらの機能をレイヤー別に進めている」と語った。 またこれらの取り組みについて、現在8つのポイントで進めているという。

  1. 複数製品情報の一元化、データ品質の改善
各事業部や機能ごとに持っている製品データが違うといった状況が発生しないよう、各種データを極力統合し、一元管理して品質向上に努める。
  2. 地域サイトへのデータ反映・翻訳の強化
各リージョンごとにウェブサイトの構成や扱っている製品が異なる中で、製品情報だけはPIMでグローバルに統合管理する。
  3. セルフサービス強化(パーソナライズ、CAD、シミュレーション、パラメトリック検索)
顧客がいつでもサービスを利用できるようパーソナライズに注力し、CADデータや数値データといった重要な情報も管理する。
  4. コンプライアンス強化、アセット管理強化(DAM)
特にDAMの領域において、有名な俳優などとのプロモーションで使用する際の版権管理を徹底し、コンプライアンスの強化に取り組む。
版権までDAMで管理することについて、関口氏は「Webでプロモーションを打つ時はみんなイケイケでやるんですけど、3年後に「あれどうしたっけ?」みたいな話になりがち」という背景を示した。
  5. メンテナンス体制一元化による、コスト・データ品質改善
各事業部が独自に製品情報を作成している状況を改善し、商品情報や製品情報を一元管理する。
  6. パートナー・顧客データの交換体制構築
パートナーや顧客とのデータ交換を効率的に行うための体制を整える。たとえばパートナーがポータルを所有しており、その中からデータを取得するといったケースでも、スムーズに連携がとれるようにすることを目標としている。
  7. 7. AIとマシンラーニングの活用
パナソニック コネクト独自のAIインスタンスを活用し、PIMのデータをラーニングさせることでサポートの最適化やセルフサービスの質的向上を実現。顧客が自ら調査するよりも迅速に情報を取得できる環境の構築をめざす。
  8. カタログの自動生成 Web上のデータだけでなく、PDFなどの形で提供されるカタログにおいてもシングルソース化を進め、従来の紙媒体からデジタルへの移行をスムーズに行う。

AI活用には「AIマシンリーダブル」な データが不可欠

パナソニック コネクトでは、2022年2月に社内の全従業員が同社独自のAIを使用できる環境が整備された。これはAzure上でセキュアな環境で社員専用に提供されているものであり、会社内での利用を目的としている。「今では多くの社員がこのAIを日常的に利用しており、ChatGPTに対する利用者の慣れも進んでいる」と、関口氏は手ごたえを口にした。

こうした動きは定型・非定型のタスクをはじめとする基本的な業務生産性の向上に加え、これから来る「AIの時代」に備えて社員のスキル向上を促進するものだ。また外部に会社の情報が漏れたり、誤った情報が広まるという「シャドウAI」のリスクをケアするためにも、内部でコネクトAIを活用する必要性があるとしている。

また、関口氏はAIデータを効果的に利用するためのポイントとして「AIマシンリーダブルなデータ」を挙げた。これはAIにとって読み込みや検索がしやすく、パラメトリック検索や数値としてデータを活用できるような構造だ。具体的には、顧客の合意のもと行われる顧客接点データの取り込みや顧客インサイトの抽出、エッジデバイスからのデータ取得などが含まれている。

関口氏はヒューマンリーダブル(ユーザーが見て理解できるデータ)やオペレーションの最適化も重要であるとしつつ、「顧客がどういう風に使っているか・何に困っているかを、きちんとパーミッションを取ったうえでデータを入手させていただき、ここも我々のカスタマイズデータプラットフォームに入れていきたい」とした。

顧客価値を支えるのは、AI時代に耐えうるデータと組織の連携

最後にまとめとして、関口氏は「価値の種」を作って訴求し、契約に至った顧客が本当に価値を見出しているのかという顧客価値基準を維持するためには、全体の連携やカスタマーエクスペリエンスが非常に重要であることを再度強調した。

カスタマーエクスペリエンスを向上させるには、カルチャー、プロセス、システムの3点をすべて整える必要がある。システムだけが整っても不十分であり、組織文化や全体のプロセスの見直しも必要となる。また顧客データや製品データだけでなく、「製品に紐づくドキュメントやCAD、サポートデータなどもすべて含めた総合的な製品データの管理が重要」だと改めて主張する。

AIの利用が普及しつつある昨今、AIフレンドリーやAIリーダブルにも対応できる体制はさらに強く求められる。さらにデータコンプライアンスの重要性も増しており、「これに関する取り組みも必要だと考えられる」と締めた。